こんにちは。ちえ子です。
みなさんは文通をしている相手はいますか?
私は2人の友達と文通しているのですが、デジタル時代でも手紙っていいですよね。
今回は手紙を小説にした本をご紹介します。
紙の心
エリーザ・プリチェッリ・グエッラ 作
長野 徹 訳
出版者:岩波書店
国:イタリア
刊行:2020/8/7
ページ数:252p
定価:1,700円+税
装画:カシワイ
原題:CUORI DI CARTA
あらすじ
森の中の綺麗な施設で暮らす少年はある日、図書館の本に挟まれた手紙を見つける。それは同じ施設で暮らす、顔も名前も知らない少女からのものだった。お互いの姿も知らないまま思いをつのらせるふたり。文通にのめりこむうち、ふたりが暮らす施設の不穏な実体が暴かれていく……。
おすすめポイント
この本は書簡体小説というもので、手紙形式で書かれた本です。あまり馴染みがないですよね。私もこの本で初めて知りました。2ちゃんねる風SSとかと雰囲気が似ているような気がします。(もっとも、手紙なので基本的にはふたりだけのやりとりが続くわけですが)
手紙というと昔の設定?と思いますが、ディストピアものなので設定は現代…か、もう少し先の未来でしょうか。謎の研究所で生活する十代の少年と少女が心を通わせていきます。
もちろん2人には施設に来たワケがあるのですが、それは忘れたい記憶を忘れるため。なーんかキナ臭いですよね。施設の謎をめぐって話が進んでいきます。
表紙は絶対どこかで見たことのあるイラストレーターのカシワイさん。無味乾燥、近未来、というイメージとピッタリです。また、色使いもかわいく思わず表紙を見せて持ち歩きたくなってしまいます。イタリア語の原題が書いてあるのもおしゃれ!
『紙の心』の装画を描かせていただきました 本に挟んだ手紙で進む書簡小説 岩波書店STAMP BOOKSシリーズ pic.twitter.com/0OOCWc70uE
— カシワイ (@kfkx_) 2020年8月7日
ちなみに皆さんはイタリア文学って読んだことありますか?私はパッと思いつかなかったのですが、「ピノッキオの冒険」や「デカメロン」などが挙げられるようです。ネットで少し調べてみましたが、日本ではイタリア文学よりもイタリア映画の方が馴染み深いのかな?という印象でした。おすすめのイタリア文学があったらぜひ教えてほしいです。
主人公のダンとユーナは図書館の本に挟んだ手紙でやり取りを重ねていくのですが、出会って数日で恋に落ちていってしまう青春が眩しいです。お互いの姿が分からないからこそ盛り上がるんでしょうか。ネットで知り合った人とは盛り上がりやすい、みたいなもの?
走るってことを教えてくれたときから、稲妻みたいに走るあなたを想像してる。わたしのそばを猛スピードで駆け抜けていくあなたを。でも、わたしには、その姿のほんの一部がちらっと見えるだけ。目の中の光や、鼻や、前にのばした脚や曲げた腕が。あなたはけっして完成できないジグソーパズルだね。
キスを
ユーナ
ユーナ。ユーナ。ユーナ。ユーナ。きみの名前をいつまでも書いていたい。分かつことのできないユーナ。この世にひとりしかいないユーナ。白鯨みたいに類まれなユーナ。
じゃあ、いまから走りに行くよ。きみに想像してもらえるように。
どうせなら、きみにむかって走れるのならいいのに……。きみがぼくのゴールだったらいいのになあ。
お願いだよ。ぼくに手紙を書くのをやめないでね。
きみの
ダンより
なんという健気さ、なんという純情。面と向かって言えないようなクサい言葉も手紙なら易々と伝えられちゃいます。
なんとなく察している方もいると思いますが、YA×親子の関係の悪さ=闇、という方程式はここでも成り立っています。
ダンもユーナもリアルすぎてキツい家庭環境を抱えています。ユーナはとある出来事からすれ違うようになってしまった両親の間で、ダンは威圧的な父親といつも疲れている母親の間で生活していました。このあたりの描写がキツいですね……。
こういう辛さってあんまり他人には言えないというか、特にダンとユーナは両親と自分しかいない家庭で育っていて自分以外の目線がないので、自分の意見に自信が持てなくなっちゃうところがあったんじゃないかな~と思います。日本でもイタリアでもあるあるな家庭問題なんだなと思うと複雑ですが。この辛さを文字にしてくれるだけで救われる人もいるんじゃないかなと思うので、ぜひ悩める方には手に取ってもらいたい本です。
研究所にいても闇、家へ帰っても闇な状況からふたりがどう抜け出していくのか、研究所の目的は何なのか、ぜひ最後まで読んでみてくださいね。